こんにちは!カンガルー師匠です。
今回から、会計面からの企業分析記事も書いていこうと思います。第一弾はコロナ禍で最も打撃を受けているJALとANAの倒産リスクについて書いていきます。
会計数値から見る倒産リスク
そもそも倒産の定義とは
専門家ではない限り、ザックリと「倒産=借金やツケを返せなくなった」と思っておけば大丈夫です。以下に帝国データバンクの解説を引用します。
日常的に使用する「倒産」という言葉は、法律用語ではありません。一般的には「企業経営が行き詰まり、弁済しなければならない債務が弁済できなくなった状態」を指します。具体的には、以下に挙げる6つのケースのいずれかに該当すると認められた場合を「倒産」と定めます。
帝国データバンク
1. 銀行取引停止処分を受ける
2. 内整理する(代表が倒産を認めた時)
3. 裁判所に会社更生手続開始を申請する
4. 裁判所に民事再生手続開始を申請する
5. 裁判所に破産手続開始を申請する
6. 裁判所に特別清算開始を申請する
JALは過去に3番の会社更生を適用していますし、同業のスカイマークは4番の民事再生をしています。両社の違いはこちらのページをご参照ください。
上記の倒産の定義からわかるように、赤字が倒産の直接の原因ではありません。大赤字を出しても現金があれば倒産しませんし、赤字が続いていても出資や銀行からの融資で現金が補填され続ける限りは倒産を回避できます。また、逆にものすごい勢いで経営を拡大している会社では、黒字でも現金の調達が間に合わずに経営が苦しくなることもあります。ナイキ創業者の伝記によると、経営拡大期はずっと資金繰りが苦しかったそうです。
JALとANAの現金が尽きるまで
さて、現金が尽きる=倒産とわかったところで、JALとANAがいくら現金を持っているのか、どのくらい余裕があるのか見てみましょう。2社ともに4-3月決算ですので、4-6月の第一四半期決算が最新の数値です。
JAL | ANA | |
現金残高(20年6月末) | 3,943億円 | 5,169億円 |
有利子負債残高 | 5,046億円 | 1兆3,589億円 |
コミットメントライン | 2,000億円 | 5,000億円 |
自己資本比率 | 45.9% | 33.9% |
1Q営業CF | ▲1,302億円 | ▲1,359億円 |
四半期固定費(償却費除く) | 1,000億円 | 約1,400億円※ |
JALはあと8か月。ただし追加借入の余地大きめ
上記表の営業CFに加えて、CF計算書を見ると投資CFで固定資産の取得に約250億円、財務CFで飛行機のリース料支払いに約60億円キャッシュアウトしていることがわかります。固定資産の取得は今後もっと削減するとしても、3ヶ月でおおよそ1,500億円の現金が出て行く状況が続くとすれば、4,000億円の手持ち現金は8カ月で尽きることになります。ちょうど21年3月期末決算が山場になる計算です。
ただし、お願いすれば追加で銀行が貸してくれるコミットメントラインが2,000億円あり、自己資本比率もまだ46%ですから、追加借入で延命する余地があります。詳細は後述しますが、1Qの売上や利益は史上最低最悪の水準であり、仮にそれが年度末まで続いたとしてもなお現金が尽きる状況は回避できます。
ANAはあと6カ月強。自己資本比率の低さがネック
ANAはCF計算書の内訳が無かったので、少々荒っぽい推定をします。こちらの記事によると月当たりの現金支出が873億円とのことですが、1Qで固定費を約300億円削減したことを加味して、750億円と仮定すると6.8ヶ月という数字になります。
ANAの場合、上記表からわかる通り既に有利子負債が多く、自己資本比率も低いです。ここで、2Q,3Qに1Qと同じ水準、すなわち1,000億円ずつの赤字を計上し、3Q末で現金が尽きてコミットメントラインの5,000億円を引き出すと仮定しましょう。すると、1Q末の自己資本が9,700億円、総資産が2.8兆円ですから、7,500億円の自己資本で、借入金を含めた総資産が3.1兆円になり、自己資本比率は24%となります。一般的に自己資本比率は20%を切ると危険水準といわれていますので、その先の追加借入はJALと比較して難しいものとなるでしょう。
債務超過までのバッファ
債務超過とは
今度は打って変わって債務超過の話です。債務超過とは、持っている資産より借金の方が多い状態のことを指します。通常、企業は株主から貰った元手(資本金)とため込んできた利益(利益剰余金)が手元にありますが、利益の蓄積が無くなり、元手も食いつぶしてしまうと債務超過となります。
上述の通り、現金が手元に残っており直近に返さなくてはいけない借金が返済出来ていれば倒産はしないのですが、債務超過だと借金の方が資産より多いため、いずれ返済が行き詰る瀕死の状態です。そして、東証一部上場企業は債務超過となると、東証二部に落とされます。さらにそこから1年(コロナが原因の場合は2年)で債務超過から脱却しないと上場廃止となります。
最近の有名な事例だと、東芝は大赤字を出して東証二部に降格し、今一部への復帰申請を進めているところです。東証二部降格ですら株価暴落は確実ですし、上場廃止だと自由な売買が困難になり、損切すら難しくなるので個人投資家には大打撃です。
JALとANAの純資産
さて、前置きが長くなりましたが、JALとANAは債務超過までどれだけの余裕があるのでしょうか?以下の表に関連する数値をまとめました。
JAL | ANA | |
純資産(20年6月末) | 9,684億円 | 9,743億円 |
1Q純損益 | ▲951億円 | ▲1,104億円 |
航空機資産 | 9,763億円 | 1兆1,380億円 |
繰延税金資産 | 1,573億円 | 1,404億円 |
仮に1Qと同じ水準の赤字が2~4Qも続いたとすると、21年3月期末の純資産は、JALが約6,831億円、ANAが6,431億円となります。ここに減損と繰延税金資産の取り崩しが加わったとしても、さすがに債務超過までは行かなさそうです。
ということで、債務超過の方も21年3月期は大丈夫と結論付けます。
そもそも国が救済するに決まってますが、、
以上長くなりましたが、現金残高の話と合わせて、JALもANAも21年3月期はまだ大丈夫と結論付けます。
加えて、2社とも我が国を代表する航空会社であり、かつてJALも国に救済してもらったことから、当たり前ですがそう簡単には潰れない(国が潰させない)でしょう。株価についても、2社とも2019年度末の6割弱くらいの水準で下げ止まっています。
21年からコロナ禍が収束して経済が回復するというのが大方の想定ですが、それであれば2社ともギリギリの所で持ちこたえて復活してくるでしょう。仮に21年の末でも今のような状況であればヤバいですが、、
これで当記事の第一部を終わりにします。
JALとANAの比較
ここからはJALとANAの経営戦略や売上高などを比較しながら見ていきましょう。
拡大路線だったANAと堅実なJAL
一言でいうと、JALは経営破綻後は堅実に再建をしてきた一方、ANAは好景気やインバウンド客の盛り上がりを背景にイケイケドンドンで規模を拡大させてきました。ANAは中期経営計画で2022年に売上2兆4,500億円を掲げていましたが、上述の有利子負債の額や自己資本比率からも拡大路線を進んできたことが伺えます。また、2社の売上規模を見ると、ANAの方が一回り大きく、増加率も上回っていたことがわかります。

しかし、利益についていえばJALの方が勝っていました。これは減価償却費の軽減や法人税の減免という再建サポートがあったためです。もちろん、こういったサポートだけでなくかの有名な稲盛和夫氏を迎えて、末端のCAまで自社の決算に注視するほど“損益”への意識改革を行ったことも事実です。
セグメント構成は似た者同士
下記20年3月期のセグメント別売上高のグラフからわかるように、JALとANAのどちらも国際線と国内線が同じくらいの規模の二本柱で、あとは航空貨物や旅行事業が少しという構成です。コロナの影響下でも航空貨物は堅調なようですが、全ての事業が航空関連のため、コロナによる乗客減に対するリスクヘッジをすることはできません。

コロナによる大打撃の1Q決算
誰も海外旅行や出張に行かなくなり、国内線もずっとガラガラという状況はニュースでよく報道されていましたが、改めて数字とグラフで見てみると衝撃的です。

日本でもコロナヤバくねという雰囲気が醸成されてきたのは2月後半からだと思いますが、あまりの急速な変化に対応し切れなかったことが4Qの数値の落ち込み具合からわかります。そして、緊急事態宣言が出ていた期間を含む1Q決算は衝撃的な数値です。売上高は前年の4分の1程度に落ち込み、例年の年間利益と同額程度の赤字を3ヶ月で計上しました。
最後に
会計の数値を読み解くことにより、ビジネスの動きがよりハッキリと見える楽しさを知って欲しくて記事にしました。USCPA学徒の方は、テスト勉強だけだと味気ないので、たまには学んだ知識を生きた数字で試す機会を持つようにするといいでしょう。
エアライン業界は就職人気の高い業界でした。新卒採用が見送りになったとはいえ、コロナ終息後に再チャレンジしたいという就活生や、いつか憧れの業界に入りたいという社会人もいるでしょう。漠然と業界に不安を抱くのではなく、会計数値を見ながら自分なりの判断を出来るようにしましょう。
それでは、この辺で失礼します。
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