JR東日本・東海・西日本の違いを比較(コロナの影響・売上・利益構造・などを解説)

企業分析

こんにちは!カンガルー師匠です。

今回は業界研究シリーズとして、JR 3社(東日本・東海・西日本)を取り上げます。3社ともホワイトまったり高給、安定の大企業という感じでしたが、コロナで大打撃を受けています。都心の電車も新幹線も3月頃からずっとガラガラ。この状況が続けばJRはどうなってしまうのでしょうか?会計データを使って分析していきましょう!

まずはJR 3社の違いから

JR各社の担当地域

乗客として利用する分には、JRはJRで会社名まであまり意識しないかもしれません。JRはかつて日本国有鉄道(国鉄)で、1987年に民営化されました。このとき、以下の6社が出来ました。

  • 北海道旅客鉄道株式会社(JR北海道)
  • 東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本):2002年6月、完全民営化。
  • 東海旅客鉄道株式会社(JR東海): 2006年4月、完全民営化。
  • 西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本):2004年3月、完全民営化。
  • 四国旅客鉄道株式会社(JR四国)
  • 九州旅客鉄道株式会社(JR九州): 2016年10月、完全民営化。

※正確には他に6つの法人もありますが今回は割愛。

各社が担当する地域は以下の通りです。

こちらのサイトより引用しました。

3社で異なる収益源

3社の特徴は下記の通りです。

JR東日本:関東圏、特に首都圏の在来線が強い
JR東海:東海道新幹線が圧倒的ドル箱で高収益
JR西日本:東日本と東海の中間くらい。運輸業以外も強い

各社のファクトシートから参考になるグラフを引用しておきます(東日本、東海、西日本の順)。

JR東日本2020ファクトシートより
JR東海2019ファクトシートより
JR西日本ファクトシート2019より

運輸業は電車を運行して運賃を稼ぐのは当然として、海外への鉄道システムの納入・保守も含んでいます。駅スペース活用事業では“ecute”や“NewDays”のような駅構内での店舗展開を行っています。ショッピング・オフィス事業はルミネや新宿ミライナタワーのような商業施設ですね。その他にはホテル事業・クレジットカード事業・Suica事業などを手掛けています。

JR 3社はコロナでも倒産しません

当たり前やろとツッコミが入りそうですが、JR 3社は倒産しません。コロナで人の動きが激減し、JALとANAは本当に倒産の危機ですが、さすがにJRは大丈夫です。JALとANAの記事JTBとHISの記事で、現金が尽きて借金やツケを返せなくなった時に倒産するという話は何度もしてきました。これらの記事では現金残高についてガリガリ分析しましたが、JR 3社は現金に余裕があるかつ、資金繰りに優しいビジネスモデルなので、大まかに数字を紹介するにとどめておきます。

JR東海は元々キャッシュリッチ、東と西は借入済み

東海道新幹線が圧倒的ドル箱のためJR東海は高収益という話をしました。純利益やROEのグラフは後でお見せしますが、他の二社よりワンランク上の収益率の高さを誇ります。そして、現金も元々たくさん持っていた訳です。他の二社がコロナ禍を受けて追加借入をした一方、JR東海は1Q末時点ではまだ借入をしていません。

JR東日本は1Qに社債と長期借入金の残高が増えている上、7月20日に850億円分の社債を発行したことが後発事象として開示されています。JR西日本も1Qに社債と長期借入金が合わせて4,000億円弱増加しています。これで当面のキャッシュは手当完了です。

余談ですが、B/S date以降の重要な借入を後発事象として開示するのはUSCPA受験生ならFARで学習したと思いますが、実際の財務諸表で見ると、進研ゼミみたいに「あ、これUSCPAでやったやつだ」とテンション上がりませんか?たまに気になる会社の決算も見るようにしていると、試験勉強にアクセントが効いて良いと思います。

資金繰りに優しい鉄道会社のビジネスモデル

鉄道会社は巨額の設備投資が必要なので、恒常的に多額の長期借入金をしています。ただ、日々の資金繰りという意味では、現金を素早く回収できるため、実はそれほど多く現金を持っておく必要はありません。

最近は現金で切符を買って電車に乗る人は少ないのではないでしょうか?みんなSuicaなどのIC乗車券を使いますよね。そしてIC乗車券には先に多めにチャージしているはずです。これは鉄道会社から見ると、メチャクチャ有難いんですよ。実際に電車に乗って運賃を払ってもらう前に、運賃以上の額を前払いで受け取れることになりますから。例えば残高が減った時に3,000円分チャージして、何回か電車に乗ってまたチャージするという使い方をしている人の場合、常時3,000円分鉄道会社の資金繰りを支えていると言っても過言ではありません。

モノを作って売る、あるいは仕入れて売る普通の会社だと、基本的に掛けで売って代金の回収は1~2か月先になります。また、顧客のオーダーメイドで製品を作るようなビジネスだと製造に必要なコストを賄うための前金を貰う場合がありますが、必要なコストを大幅に上回る前受金は貰えません(払う顧客側も資金繰りの都合がありますからね)。

この辺の資金繰りの話は簿記2級じゃなかなか感覚的に理解できないものと思います。仕訳作れて決算締めが出来ても、ビジネスを会計で理解する力は簿記2級では身に付きません。やはり簿記にとどまらず会計としてきちんと学ばないといけませんね

あと、最近気になるニュースがありました。在宅勤務が主流になった会社で通勤定期手当を廃止し、出社の都度経費精算する動きが盛んなようです。これは鉄道会社にとって、売上が減るだけでなく、資金繰りの面からも悩ましい話だと思います。定期代こそまとまった前払金ですからね。あと1ヶ月くらいで上期の定期が切れて更新する時期だと思いますが、4月はとりあえず定期を買った人も、今回はほとんどが見送るのではないでしょうか。

コロナによる業績の悪化

直近の決算の落ち込み

コロナの業績への影響を見てみましょう。四半期ごとの売上と純利益を下記の通りプロットしました。

2月からちらほら外出の自粛や在宅勤務が始まったと記憶していますが、それでも1~3月の決算は各社相当落ち込んでいます。そして緊急事態宣言が出ていて、書き入れ時のGWも潰れた4~6月は更に落ち込みました。

特に衝撃的なのが売上が半減したことです。売上高はビジネスの規模、需要そのものを表す指標ですが、創業間もないベンチャーや市況に左右される業界ならともかく、鉄道会社で売上が半減するなどこれまでは想像もつかなかったことです。こうして数字で確認すると改めてコロナの衝撃の大きさがわかります。

固定費の削減

さて、JALとANAは飛行機を飛ばさなくてもリース料の支払いがコンスタントに発生し、日々キャッシュが流出していく状況ですが、JR 3社はどうでしょうか。JR東日本の1Q決算資料に掲載されていた単体P/Lの営業費用を見てみましょう。

営業費は前年同期比約6%の減少となっています。人件費で頑張ってコスト削減した形跡が見られます。クレジット手数料や委託販売手数料の減少により「その他」が減少したとありますが、販売の減少に伴って手数料も減ったということで。これは典型的な変動費ですね。償却費は現金流出を伴わないので、今回の分析では考えなくて大丈夫です(ただし、当然“損益”という面では償却費負担が重い重厚長大産業は売上が減ると一気に巨額赤字になります)。

他の二社も似たような費目と傾向でしたが、筆者はJRには固定費削減の余地があまり無いと考えています。人命を預かるビジネスである以上、人件費削減のために人を減らして現場の負担が増えたり、モチベーションが下がったりすることは避けなければなりません。同様に修繕費も急に減らせる訳じゃありません。

需要の回復見込み

エアライン業界や旅行業界は、2022年頃から需要が回復すると予想しています。誰もが自粛生活に嫌気がさしていますので、いざ解禁となれば旅行、留学、国際的ビジネスによる人の動きが一気に再開するでしょう。

ただし、国内の鉄道は話が別です。サラリーマンは今さら満員電車での週5通勤には戻れませんし、経営者も国内出張くらいなら新幹線代を出さずにオンライン会議で済ました方がお得と実感したはずです。各社は需要回復の時期を明言しておらず、東日本は「テレワークの浸透などの社会的な構造変化の影響は継続する」と言っています

次章で述べますがJR各社は売上も利益も大きいです。これは、毎日のラッシュアワー、週末のお出かけ、GW・盆・年末年始の帰省ラッシュといった、激混みするほど旺盛な鉄道需要により実現していた数字でした。コロナで社会構造や人々の考え方が変わった後にどれだけの数字が維持できるかは不透明です。

JR 3社のもろもろ比較

最後に、コロナとは関係ないデータでJR 3社を比較しましょう。

規模最大のJR東日本と高収益のJR東海

下記の売上高と純利益のグラフ、およびROEのグラフをご覧ください。売上高はJR東日本がダントツであるにもかかわらず、純利益はJR東海がダントツですね。東海道新幹線の収益率の高さが伺えます。とはいえ、JR東日本の純利益3,000億円という水準も、日本の上場企業ではトップ20位以内に入るレベルです。ROEについても、最低8%は目指しましょうというのが目安ですが、2019年度(20年3月期)は別として、各社クリア出来ています。

リニア建設でB/Sが膨らんでいるJR東海

次は20年6月末のB/Sをグラフ化しました。

数年前まではJR東日本がB/Sも最大でしたが、リニア建設が本格化したことによりJR東海のB/Sが膨らんでいます。「中央新幹線建設長期借入金」として固定負債に3兆円計上されています。流動資産のうち2.3兆円はこのリニア建設で借りたお金を信託に預けている分になります。

JR東日本と西日本を見て気になるのが、流動負債に対する流動資産の小ささです。これは上述の資金繰りに優しく、現金が少なくてもやっていけるビジネスモデルによるものです。JR東海については、先程の信託2.3兆円を除いても他社より流動資産が多いですが、これも上述の通り他社よりキャッシュリッチであるためです。

まとめ

長くなりましたが、最後にまとめて締めます。

  • JR東日本:関東圏特に首都圏の在来線が強い
  • JR東海:東海道新幹線が圧倒的ドル箱で高収益
  • JR西日本:東日本と東海の中間くらい。運輸業以外も強い
  • 各社運輸業以外に、 “ecute”や“NewDays”のような駅構内での店舗展開、ルミネや新宿ミライナタワーのような商業施設運営、ホテル事業・クレジットカード事業・Suica事業などを手掛けている
  • JR東海は元々現金を多く持っていた。JR東日本と西日本は借入や社債でコロナによる経営悪化に備えた現金を確保済み
  • IC乗車券で現金を先行して確保できる鉄道事業は資金繰りが楽
  • コロナによる鉄道需要の消滅で各社2021年3月期の1Qは売上が半減
  • 固定費である人件費と修繕費は、安全を考えると削減は容易ではない
  • JR東海と東日本の純利益額は上場企業トップ20に入る水準
  • JR東海はリニア建設のため3兆円を借り入れており、B/Sが膨らんでいる

これまでインフラとしての機能を果たしつつ利益を出してきたJR 3社。しかし、アフターコロナの社会では、密回避のために需要の減少に合わせて運行本数を削ることは許されず、引き続き不採算路線まで含めて安全運行を社会から要求される、そんな苦しい時代が来るかもしれません

それではこの辺で失礼します。

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