こんにちは!カンガルー師匠です。
今回は飲料大手(サントリー・キリン・アサヒ・サッポロ)の比較です。多くの人にとって商品はどれも馴染みがあるでしょうが、会社について深く考えたことはないでしょう。各社の戦略に特徴があり、会計の観点からも面白いです。待遇もメチャクチャ良いので、社会人も就活生も調べておいて損の無い業界だと思います。
本記事のトピックまとめ
・サントリーは事業のバランスがいい。ビーム社との統合成功により世界的な蒸留酒メーカーに成長
・キリンは医薬事業を強化し、食から医まで手掛ける企業を目指している
・アサヒは買収で膨らんだ資産の整理と高収益化が課題
・サッポロは酒類事業と不動産事業が二大収益源。規模は他の3社に比べて小さく、独自路線を進む。
各社のセグメントと商品紹介
「どこも売ってるのはジュースとビールと酒でしょ」と思いきや、意外と他のこともやっています。代表的な商品ラインナップとともに見ていきましょう。
サントリー
サントリーのレポートによると以下の3つの事業分野が紹介されています。
- 飲料・食品
- 酒類
- その他
飲料・食品
ウーロン茶、天然水、BOSS、C.Cレモン、伊右衛門、オランジーナあたりが有名です。
酒類
サントリーといえばウイスキー。「響」「山崎」「角」などが有名です。さらに、2014年にアメリカの大手ウイスキーメーカーであるビームを約1兆6,000億円で買収し、“JIM BEAM”という世界的なバーボンも配下に納めました。また、ラフロイグやマッカランといったスコッチも扱っています。
ウイスキー以外では、「プレミアムモルツ」、「金麦」、「オールフリー」といったビール類、「ストロングゼロ」や「ほろよい」のようなチューハイもご存知の通り。カクテルで使うリキュール、国内外のワイン事業も手掛けています。
その他
ここが一番意外でした。「響」、「燦」、「パパミラノ」などのレストランを手掛けるダイナック、喫茶店プロント、そしてなんとハーゲンダッツもサントリーの傘下です。また、セサミンのような健康食品も売っています。
セグメント別売上・利益構成比は以下の通り。どちらもバランスが良いのが見て取れます。

キリン
キリンのセグメントは以下の4つです。
- 国内ビール・スピリッツ
- 国内飲料
- オセアニア綜合飲料
- 医薬
- その他
こちらはアニュアルレポートにあったセグメント売上・利益のグラフに商品の写真まで載っていたのでこの1枚で済ませちゃいます。

全体的にバランスが良いですが、医薬が売上の割に利益貢献が大きいのがわかります。医薬事業は協和キリンという子会社が担っており、成長領域として力を入れています。美容化粧品や健康食品で有名なファンケルとも資本業務提携をしましたし、サントリーやアサヒも健康食品は扱ってはいるものの、医療・ヘルスケアまで本格的に多角化出来ているのはキリンのみです。ファンドから多角化に反対の声が上がっていたりしますが、コロナ禍でビールの飲料事業の業績が悪化した際に比較的安定していた医薬事業は業績を下支えしました。
アサヒ
アサヒのセグメントは以下の5つです。
- 酒類事業
- 飲料事業
- 食品事業
- 国際事業
- その他
酒類事業
なんといっても「アサヒスーパードライ」が超有名。また、以前NHKの朝ドラに「マッサン」という作品がありましたが、あれのモデルになった竹鶴政孝が創業したニッカウヰスキーという会社は現在ではアサヒグループの傘下です。チューハイだと「贅沢絞り」や「Slat」、その他スピリッツからリキュールまで手掛けています。
飲料事業
ソフトドリンクだと「三ツ矢サイダー」、「缶コーヒーWONDA」、「十六茶」、「カルピス」あたりが有名ですね。
食品事業
実は色々やっています。知名度が高いのは「ミンティア」、「一本満足バー」、「エビオス錠」、「ディアナチュラ」などで、その他にも健康食品を色々手掛けています。
国際事業
アサヒは2016~2017年に計約1兆2,000億円を投じ、ベルギーの世界最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブから欧州ビール事業を買収しました。5年ほど前まではサントリーやキリンと比べて国際展開が遅れているイメージでしたが、今は追いついてきた印象です。ただ、課題は買収で膨らんだ資産の効率化と収益力の強化です(参考)。
セグメント売上・利益を見ても国際事業の存在感が目立ちますね。

サッポロ
サッポロのセグメントは以下の3つ。
- 酒類
- 食品飲料
- 不動産事業
酒類
ビールだと「黒ラベル」、「ヱビス」、「麦とホップ」あたり、チューハイだと「99.99」や「男梅サワー」が有名ですね。ワイン、洋酒などもやっており、カクテル好きならお世話になっている「ボンベイサファイア」や「バカルディ」が挙げられます。
食品・飲料
「キレートレモン」、「ポッカレモン」、「じっくりコトコト」あたりが有名。また、大豆関係も強いです。
不動産事業
サッポロにゆかりのある札幌、恵比寿、銀座で不動産を所有。「恵比寿ガーデンプレイス」「サッポロファクトリー」「GINZA PLACE」といった複合施設およびオフィスビルなどの運営をしています。
正直やや影が薄く他の3社より規模も小さいサッポロですが、セグメント別売上・利益構成比が特徴的です。

グラフを見てわかる通り、不動産が稼ぎ頭になっています。お酒の利益率は他社より低いですし、飲料食品に至っては赤字です。ただ、独自路線を貫く方針で、2026グループビジョンとして「サッポログループは世界に広がる『酒』『食』『飲』で個性かがやくブランドカンパニーを目指します」を掲げています。
飲料4社を6つの観点で比較
ここからは4社並べて6つの観点から比較してみましょう。
P/L
まずはP/Lです。

一過性の要因でブレていますが、平常運転だとサントリー・キリン・アサヒは2兆円の売上で純利益が1,500億円程度です。サッポロだけ規模が1/4程度でかなり小さいことがわかります。
B/S

B/Sは海外事業を巨額買収したサントリーとアサヒでのれんが大きくなっているのが特徴的です。キリンは以前ブラジルキリンという海外事業を持っていましたが、業績が悪く減損まで出したため売却してしまいました。
4社とも会計基準はIFRSを採用しており、のれんの償却は不要です。サントリーののれんは20年6月末で約8,400億円であり、単純に20年で償却すると想定した場合年間420億円利益を押し下げます。ここまでのれんが大きい企業の場合、P/Lを見る際は注意が必要ですね。
最近はIFRS採用企業が増えていますが、当初の意図は海外に進出する際にグローバルの競合他社と同じモノサシで業績を測れるようにすることだったのだと思いますが、シャイアーを巨額で買収したタケダや次々に投資を拡大しているソフトバンクなど、のれんの償却が不要という点もIFRSを導入する意義として見逃せなくなっています。
コロナの影響
半期ごとの業績をグラフ化しました。

サントリーは親会社のホールディングスではなく子会社のサントリー食品インターナショナルの方が上場しており、親会社の業績開示が半期単位だったのでそれに合わせました。4社とも12月決算です。
コロナで飲食店がガラガラになり、特に居酒屋やダイニングバーは飲み会客が消滅したにも関わらず、売上は10%減程度で踏みとどまっています。これは家で飲む量が増えて外食の減少をある程度相殺したからと考えられます。在宅勤務で家に籠ってばかりだとストレス溜まりますし、平日から気軽にビール1缶プシュッっと開けてしまいますからね。
ただ、飲み会では残すほど大量にピッチャーでビールを頼んでたり、外だとガバガバ飲む人も家ではそこまで飲まないでしょうから、この状況が続くとかつてほどの高収益を謳歌することは厳しくなります。もちろん、清涼飲料の方も外出控えに伴い自販機の収益が悪化したり、コンビニで売れにくくなったりしていると考えられます。

ビールシェア
長年キリンとアサヒでトップ争いを続けていて、サントリーが伸びてはいるもののこの2社には届かないという感じです。

清涼飲料水シェア
こちらのサイトから2017年度のメーカー別シェアのグラフを拝借しました。

清涼飲料ではコカ・コーラが一番ですね。上位4社の規模感は自販機やコンビニの棚で見る感覚と一致するのではないでしょうか。
なお、本記事でコカ・コーラを取り上げなかったのは、ビール4社で比較した方が一貫したストーリーが見えやすかったからです。コカ・コーラは全国各地に展開するボトラーと呼ばれる会社が日本コカ・コーラから原液を買い、商品を製造して売るという特殊なビジネスモデルですし、酒も2018年に始めて檸檬堂で参入したばかりですしね。
平均年収と年齢
平均年収 | 平均年齢 | |
サントリー食品インターナショナル | 1,033万円 | 40.9歳 |
キリンホールディングス | 896万円 | 42.9歳 |
アサヒグループホールディングス | 1,250万円 | 45.7歳 |
サッポロホールディングス | 760万円 | 46.6歳 |
各社高給であるものの、本社機能のみの持株会社の数字であることには注意が必要です。
最後に
日本市場が縮小傾向であり、海外に活路を求めて進出している点は各社に共通しています。また、サントリー、キリン、アサヒの売上や利益の規模感も酷似しています。ただ、もう一歩踏み込んで決算情報を読み込むと方向性の違いが見えてきました。
働く側としての目線で見ると企業の歴史やカルチャーも重要です。就活生は、B to Cの会社だとわかりやすい分「御社の商品が好きだから」という見方に偏りがちですが、決算情報をよく読んでビジネスの方向性について自分なりの意見を考えつつ、企業カルチャーも踏まえてどの会社が最も自分に合いそうか見極めましょう。
それでは、この辺で失礼します。
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