就活生に大人気のリクルートの企業研究(セグメント・会計・ビジネスモデル)

企業分析

こんにちは!カンガルー師匠です。

今回は企業分析シリーズとしてリクルートを取り上げます。リクルートは人材輩出企業として有名で、60年の歴史を誇りながらもベンチャー企業のような風土を保っており、常に革新的なサービスを提供し続けてきた会社です。時価総額は約7.3兆円で日系企業の中では9位であり、日本を代表する会社の一つです(2020/9/18時点)。

リクルートは、ユーザーにサービスを提供しながら広告主とつなぐ、GoogleやFacebookに近い画期的なビジネスモデルを60年も前から実現させてきた会社であり、その歴史やカルチャーは学ぶべき価値のあるものです。また、2.4兆円の売上を計上しながらも高収益を維持しており、会計の観点からその特徴を考察すると興味深い会社です。色んな面からリクルートを見ていきましょう。

リクルートは何をしている会社か(セグメント紹介)

リクルートのセグメントは下記の3つです。

  • HRテクノロジー
  • メディア&ソリューション
  • 人材派遣

私も今回調べるまでは「リクルートは色々やってそうだけど、ちゃんと説明できない」というイメージでしたが、意外とシンプルでした。

HRテクノロジー

HRテクノロジーは、2012年に買収したIndeedと2018年に買収したGlassdoorで構成されるセグメントです。テクノロジーを活用して、オンライン求人プラットフォームの運営や、人材ビジネスに関するソリューションの提供により、個人ユーザーの求職活動と企業の採用活動をサポートしています。

メディア&ソリューション

リクルートHD統合報告書2019より

メディア&ソリューションは、リクルートといえば誰もが思い浮かべるSUUMO、ゼクシィ、ホットペッパー、じゃらん、リクナビなどのセグメントです。いずれもユーザーとクライアント(お店や企業、広告主)をつなげるプラットフォームを提供し、クライアントからフィーを頂くビジネスモデルです。最近では中小企業向けのSaaSによる業務・経営支援サービスにも乗り出しています(詳細は後述)。

人材派遣

その名の通り、企業に派遣の労働者を提供するサービスです。実は海外企業も傘下に収めており、グローバル展開しています。

セグメント別売上高・EBITDA

セグメント別の売上とEBITDAは下記の通りです(EBTIDAは会計利益と営業キャッシュフローの中間のようなもので、簡便的にキャッシュインを把握するための数値です)。

リクルートHD統合報告書2019より

一見すると、メディア&ソリューションの収益性の高さが目立ちます。こちらは、GoogleやFacebookが大儲けして世界最高峰の企業となったことからもわかるように、SUUMOやホットペッパーといったプラットフォーム型の事業は、非常に収益性が高いということが読み取れます。

一方、人材派遣は規模が大きく、2.3兆円と意外に大きいリクルートの売上の50%以上はここから上がっています。ただ、EBITDAへの貢献は小さいですね。まあ、言い方は悪いですが人材派遣ではそんなにたくさんマージンは取れない(ピンハネし過ぎちゃダメ)ということです。

HRテクノロジーはシェアが小さいものの収益性はそこそこであり、3つのセグメントでは最も高い成長率を誇ります。採用はいつの時代にあっても企業にとって重要な業務であり、AIとの親和性も高く、マーケットとして大変魅力的であるといえます。

リクルートを会計の観点から考察

リクルートが何をやっているのかわかったところで、会計の数字を見ていきましょう。

高い成長率と収益力を維持するP/L

リクルートHD統合報告書2019より

リクルートの2020年3月期は、売上が約2.4兆円、純利益が1,800億円でした。2019年3月期だと純利益は約1,700億円で、上場企業の中では41位。売上高2.3兆円は57位ですので、収益性の高さが伺えます出典)。さらに、10%を超えれば優秀というROEもリクルートの2019年3月期は19.3%でした。

2019年3月期までの3期で、海外企業の買収を重ねながら売上を大きく伸ばしていますが、EBITDAも連動して成長させている点も非常に優秀です。

コロナで売上減でも一定の利益は確保

四半期ごとの売上と純利益をグラフ化しました。

緊急事態宣言が出て経済活動がストップした21年3月期1Qに売上が大きく減っていますが、200億円の黒字をキープしています。リクルートで発生する固定費は人件費と宣伝費が大半と考えられ、固定資産を多く抱える製造業よりは売上が減少しても利益を確保しやすい構造です。なお、20年3月期は売上高2.4兆円に対し、売上原価が1.1兆円、販管費が1兆円で粗利が大きいP/Lです。

下記に21年3月期1Q決算説明資料からセグメント別売上の表を抜粋しました。

販促のうち、飲食>旅行>結婚>美容>住宅の順で売上の減少率が大きく、人々の行動パターンが見えてくるのも面白いですね。

強固な財務基盤のB/S

次は2020年1Q末のB/Sを見てみましょう。

流動資産と資本が分厚く、コロナで20年4Qから業績が悪化してもなお強固な財務基盤であることがわかります。

のれんがやや大きくなっていますが、上述の通り海外の企業を積極的に買収しているので当然でしょう。リクルートはほんの10年ちょっと前までは非常にドメスティックな会社でしたが、最近は海外企業の買収により売上高海外比率を一気に伸ばしています。当然、海外と関わる部署では英語が堪能な人材が豊富だと聞いたことがあります。これから新卒や中途でリクルートを受ける人は英語力が高いに越したことはないと思います。

あえて無形資産を別出しにしたのは、これが恐らくソフトウェアやコンテンツだと思ったからです。昔は情報誌、すなわち紙を扱う会社でしたが、最近はホットペッパーからSUUMOまで全部Web化しています。となると、そういったプラットフォームを開発するのに要したコストは無形資産としてB/Sに計上することになります。

あと、リクルートは分厚い自己資本を持っていますが、かつて不動産業も手掛けており、バブル崩壊で手痛い打撃を受けて経営危機に陥ったことがあります。その際、1兆円以上の負債を抱えていたのですが、10年ちょっとかけて完済しました。今、有利子負債は1,000億円ちょっとしか負っていません。

リクルートのビジネスモデルやカルチャー

最後にリクルートのビジネスモデルやカルチャーに触れておきましょう。

リボンモデル

リクルートといえばリボンモデルと呼ばれる下記のビジネスモデルが有名です。

リクルートHD統合報告書2019より

リクルートの祖業は就職情報誌で、企業に求人広告枠を売り、雑誌自体は大学生に無料配布していました。ユーザーすなわち読者だけを見るのではなく、また企業だけを見るのでもなく、両者の間にリクルートが入ってマッチさせることで価値を生み出します。

FacebookやGoogleなど、最近のITサービスは基本的にユーザーに無料で使わせて広告で稼ぐビジネスモデルです。リクルートの就職情報誌は60年前にこのビジネスモデルを先取りしていた訳ですね。SUUMO、ホットペッパーなども基本原理は同じです。原理自体はシンプルですので当然マネをしてくる会社も出てきますし、また紙媒体からネットに移っていく中でリクルートが生き残れるのかという懸念もありました。

しかし、ビジネスモデルが画期的なだけでなく、イノベーションを生み続ける組織風土を維持していることこそが、リクルートが日本を代表する企業である理由です。最も有名なのは、全社員を対象とした新規事業提案制度「Ring」です。あのゼクシィやスタディサプリもこのRingから生まれました。また、かつてリクルートの社訓であった「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という言葉も非常に有名で、私も好きな言葉です。

こういったカルチャーにより、リクルート事件や上述の莫大な借金を乗り越え、リクルートは成長し続けてきました。最近では、リボンモデルの先が求められており、これまでに培った中小企業との関係やビジネスの知見を活かし、経営支援事業に乗り出しています。具体的には、Air Business Toolsという手軽に導入できる会計、決済、シフト管理などのシステム提供です。

要するに、例えば飲食店からお金を貰ってホットペッパーに載せるだけでなく、彼らのレジのIT化、電子決済ツールの導入などを支援してフィーを貰ういわばコンサル業です。人口減と高齢化により縮小する日本市場では、プラットフォーム事業も大きな成長は見込めません。しかし、逆に人手不足により店舗の経営高度化へのニーズは高まると考えられ、まさにリクルートらしい時代を先読みした方向転換といえます。

リクルート創業者、江副浩正

昭和の経営者といえば、松下幸之助や本田宗一郎が有名です。リクルート創業者の江副浩正という人物は、一からリクルートを作り上げ、あの孫正義も尊敬する一流の起業家であることは間違いありません。しかし、リクルート事件で逮捕されたため、表立って偉人としては扱われないせいか、その名を初めて聞いたという人も多いのではないでしょうか。

逮捕されたこともあって、会社から江副の名前が積極的に出されることはありませんが、今のリクルートにも上述のビジネスモデルなど彼の作ったDNAが間違いなく残っています。今の「イケてる会社」というイメージだけでは、リクルートの本質をつかむことは出来ません。

画期的なビジネスでありながら泥臭く営業していた創業期。収益が一時期に偏る就職情報誌だけでは食っていけないからと始めた不動産情報誌。田舎の農場開発やスキー場設立、さらには不動産販売まで手を広げていた時代。上場前の株を政治家含む多数の人間に配って内閣解散にまでつながったリクルート事件。バブル崩壊で抱えた借金を自力で完済した立て直し期。江副個人としては、冴えない少年が大学時代に現在でいうところの年収一千万円くらいの金を稼ぎ、リクルートを起業し、異色のサービス業として経団連入りまでのし上がったサクセスストーリー。そして個人の株取引で失敗して破産寸前になり、検察と20年近くリクルート事件で争い、最後はボケて落ちぶれてしまった波乱の人生。この辺を一通り知ってこそリクルートがわかると思うので、会社に興味がある人は必ず以下の本を読むことをお勧めします。

江副浩正 | 馬場 マコト, 土屋 洋 | ビジネス・経済 | Kindleストア | Amazon
Amazonで馬場 マコト, 土屋 洋の江副浩正。アマゾンならポイント還元本が多数。一度購入いただいた電子書籍は、KindleおよびFire端末、スマートフォンやタブレットなど、様々な端末でもお楽しみいただけます。

最後に

ここまでリクルートについて調べたこと、知っていることを書き連ねて4,000文字近くになりました。リクルートのサービスを使ったことが無い日本人はいないんじゃないかと思いますが、身近な会社でありつつも掘り下げると色んなことが出てきましたね。

それでは、この辺で失礼します。

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