経理未経験USCPAに教える経理実務の勘所

USCPA

こんにちは!カンガルー師匠です。

今回は経理未経験者で、USCPAや簿記2級を取って経理に転職したいという人向けに経理実務の勘所というか、経理パーソンとしてのお作法を解説します。

私は元大手企業の経理マンで現会計コンサルタントですが、最近はクライアントの経理業務改善をサポートするプロジェクトにアサインされており、久しぶりに経理実務にどっぷり浸かっています。経理業務に若干のブランクがあり、前職とは全く異なる業界、会社の規模であっても大きな苦労なくすんなりキャッチアップ出来ました。そこで、経理実務能力って汎用性あるなと感じたのですが、逆に考えると転職でUSCPAや簿記の資格よりも実務経験が見られるのも納得です。やっぱり実務の勘所、職業人としてのお作法、経理ならわかりあえる感覚というのがあるのだと思います

という訳で、経理未経験の人に向けて、資格の勉強では出てこないような実務的な話をしてみます。

経理パーソンに大事な考え方

まずは経理パーソンの思考法というと大袈裟ですが、資格の勉強では出てこない考え方についてです。

原典にあたる癖をつけよ

これは私が新卒で経理に入って早々にJCPAの上司から言われた言葉です。また、指導員であったJCPAの大先輩にも、論点の説明をしてもらった後に「基準のここに書いてる話だから、時間作って必ず読んでおきなさい」と言われました。とにかく悩んだら会計基準や税法を読み込んで自分の頭で考えよということです。

簿記2級は会計基準に書いてある考え方のうち、仕訳の入れ方だけに焦点を当てています。USCPAのテキストは会計として体系立てた説明になっていますが、学習中に原典であるASCを見るのはリサーチ問題くらいでしょう。また、最近はググればEY新日本有限責任監査法人の解説ページなど気の利いた情報もすぐに手に入り、原典を読まなくても問題解決できちゃったりします。

会計の学習を始めたばかりの頃は基準を読むのも一苦労というか、何を言ってるのか全然頭に入ってこないでしょう(私もそうでした)。しかし、最後に物を言うのは「基準/税法には何と書いてあるか」なので、自分の頭で理解しておく必要があります。そして、監査法人出身のJCPA経理マンはやっぱりここが強いなと感じます。

税務の視点で処理を考える

会計の資格学習で難しいのは、連結決算、税効果、減損といったテクニカルな領域だと思います。入出金の仕訳なんてのは簿記3級の話で、事務職のオバチャンでも伝票切れまっせというレベルですが、実は多くの会社では会計テクニカルな論点よりも、日々の取引について税務の視点から考えることが重要です。

上記の元上司から配属初日に「経理の仕事は会計と税務の二つからなる」とも言われました。しかし、簿記だと税務は一切出てきません。USCPAだとREGがありますし、FARでも税効果で「益金/損金不算入だから会計の利益から足し引きして…」という話がちょろっと出てきますけどね。とはいえ、税務実務に足るレベルではありません。

実務ではUSCPAの問題のようにいかにもアヤシイ取引がいくつかピックアップされている訳ではなく、自分たちで集計をして確定申告を行う必要があります。確定申告は原則年に一度ですが、日々の取引を会計帳簿に記録する際にも常に税務の視点は持っておかないといけません

あと、USCPAだと税効果の分野で会計と税務の償却差額の話が出てきますが、こちらも実務上は重要です。日本では税法で耐用年数が決められており、会計も税法と同じ償却を採用することが多いものの、たまに別々の償却をしている事例があります。その際は税務用と会計用という二つの固定資産台帳を管理し、申告書上で調整を行います。

また、移転価格税制はUSCPAだと端っこにちょろっと出てくる程度の話ですが、税務の実務ではホットトピックです。企業のグローバル化が進む中で、公平に課税するために、不当に自国の税金を安くされないためにと、特に後進国を中心に厳しく税務調査が入っており、実際に何億という追徴課税を食った例もあります。という訳で、海外子会社との取引は要注意です。

前例踏襲主義

償却方法や棚卸資産の計算方法など、会計処理でも合理的な理由が無い限りは同じやり方を続けるべしと習います。実務でもそれは当然なのですが、もう一歩踏み込んで、常に過去の経緯を追いかけたり、他部署に似た事例が無いか疑う癖をつけるべきです。

自分がやっている業務で会計処理に悩んだとして、会計基準を読んで案を出すことも大事です、一方で、過去に似たような議論を監査人としていないか、他所の部署は同じような取引でどんな処理をしているかなど、全社的な整合性を保つための視点も重要です。そして、新しく会計処理を検討する際は、きちんとドキュメント化して監査人と前もって打ち合わせをしましょう。また、ドキュメントを残すことは同じく前例を踏襲しなくてはならない後任者にとっても非常に重要です。

数字に対する感覚

今度はザックリ数字の感覚的な話です。USCPAや簿記といった資格の問題では間違った数字が出てきたり、資料の正確性を検証する必要はありません(あるとしても、現金化不足とか間違った償却スケジュールを修正するTBS問題とか、初めから意図された誤りです)。一方で、経理実務では常に数字の正しさを自分で確認して仕事を進めなくてはいけません。

数字のマッチング

簿記の精算表のように自分で計算する訳では無くても、エクセルで財務諸表を作る際は必ず利益剰余金の変動と当期の純利益、B/Sの貸借が一致することを確認するのは当然のこと。他に、売掛金明細や固定資産台帳の残高が会計帳簿と整合しているかも重要です。

SAPなど高度なシステムで会計帳簿と補助元帳が連動しているとそういった不整合は起きにくいですが、より簡易な会計システムを使っている会社ではエクセルで補助元帳を管理している例もあります。その場合、システム上の帳簿の数字とエクセルの台帳の数字は自分たちで担保しないといけません。私のクライアントの事例で、前任者が気の利いたマクロ付きの固定資産台帳を組んだものの、帳簿と残高が不一致の状態が長く続き、最早正しい数値が検証不可能になった例がありました。個人的には、マクロが使えずに泥臭く数式を組んでいても、きちんと残高の整合を毎回担保し続ける経理パーソンの方が信用できます。

帳簿の数字か元資料か加工した数字か

「数字」と一言にいっても、その生い立ちは様々です。以前に帳簿に投入した数字もあれば、人事など他部署が作った資料からそのまま取ってきた数字、経理が集計・加工した数字など様々です。数字ごとに信頼度、検証法、間違っていた際の対応の仕方は異なります。実例が無いと上手く説明できないのですが、資格の問題とは比べ物にならないほど多面的に数字を見る必要があります。

意外と役に立つAUDのExistenceとCompletionの考え方

監査手続のアサーションとしてAUDで出てくるExistenceとCompletionの考え方は経理パーソンの実務でも役に立ちます。Existenceの方は「帳簿に計上したこの数字は元資料まで辿れるよね?」、Completionの方は「元資料や台帳にある数字を漏れなく帳簿に載せたよね?どこで確認する?そもそも、どうすればミスなく網羅的に計上出来るか?」という風に日々のチェックや業務改善に役立ちます。

仕訳投入の実務

最後は仕訳投入の超細かい実務の話です。

修正仕訳を入れるときは元の仕訳を消す

期中に利用したサービスの請求が確定しておらず、決算で見積で100を費用計上するとしましょう。その際、下記の仕訳を入れますよね。

(借) サービス利用料 100 / (貸) 未払費用 100

ところが、見積に修正が入り、あるべき数字が120であることが判明したとしましょう。ここで、下記のどちらの方法で仕訳をいれますか?


(借) サービス利用料 20 / (貸) 未払費用 20


(借) 未払費用 100 / (貸) サービス利用料 100
(借) サービス利用料 120 / (貸) 未払費用 120

どちらも結果は同じですが、後からわかりやすいのは②の方です。①だと未払費用120の残高が2本の仕訳で分かれて入ってしまいます。些細な話ですが、後で残高の内訳一覧を作る際に無駄な手間を生じさせず、事情を知らない他の人が見てもわかりやすいです

仕訳の自動振り戻しを活用する

さて、引き続き上記の例で、翌期になって請求が130で確定して支払いをするとしましょう。この時、以下の仕訳の入れ方のどちらが効率的でしょうか?


(借) サービス利用料 10 / (貸) 現金 130
未払費用    120


(借) 未払費用 120 / (貸) サービス利用料 120
(借) サービス利用料 130 / (貸) 現金 130

①は素直な考え方ですね。期末に計上した債務120を取り崩し、確定支払額との差額10が翌期の費用として計上されます。

ただ、実務上は期末の債務計上の逆仕訳を自動で計上するようにし(②の上の仕訳)、別途下側の支払い時の仕訳を計上することが多いです。サービス利用料130-120で同じく差額10が翌期に計上されます。

②は一見わかりにくいものの、実務のオペレーションに即しています。下の支払いに係る仕訳は一般職や派遣の人が日々膨大な請求書を捌く中で計上されることが多いです。その人達に、債務を特定して(しかも金額が一致しない)消し込んでもらうより、いつも通り請求書に対してそのまま払うパターンで一本化した方が効率的です。

仕訳には付随情報がいっぱいつく

原価計算でコストを集計・配賦するため、管理会計上ビジネスごとの損益を計算するため、連結決算で内部取引の消去をするため、キャッシュフロー計算書を作るためなど、様々な理由から仕訳には多くの付随情報を適切に付与する必要があります。呼び方は様々ですが、私の前職では順に原価センタ、利益センタ、相手先コード、取引コードと呼ばれていました。

簿記2級でもUSCPAでも親会社、子会社間での取引は連結上相殺すると習いますが、よくよく考えるとどうやってその金額を特定するのだろうと思いますよね。こういった付随情報を適切につけないとシステムでエラーが出たり、他部署に迷惑をかけたり、後から修正の手間が発生したりと大変です

グローバルな会社では通貨の使い分けが重要

グローバルに事業を手掛ける会社で、米ドルと円の取引が併存する場合、取引通貨と表示通貨(呼び方は会社による)の両方を駆使しなくてはなりません。仕訳でいうと、1$の取引と100円の取引は以下のように仕訳を切ります。

ドル建ての取引
(借) サービス利用料 $1 ¥100 / (貸) 未払費用 $1 ¥100

円建ての取引
(借) サービス利用料 ¥100 ¥100 / (貸) 未払費用 ¥100 ¥100

この仕訳だけ見ると簿記2級でも出てくるようなシンプルな話ですが、債務の取崩しも通貨を合わせて正しく行わないといけませんので、結構厄介です。実際、勘定データを流行りのAIを使って分析しようとしても、通貨やコードの使い分けに失敗した仕訳が積み上がって残高が汚く、そのままでは分析できない事例があります。

最後に

普段当たり前のようにやっていることであり、全部適切に言語化出来た自信はありません。多くは先輩からOJTで、また自分で実務を通じて学びました。きっと一緒に仕事をしているともっとわかりやすく生きた事例付きで解説できるんですけどね、、

とりあえず、資格の勉強では出てこない考え方や、システムを使って経理の仕事をしないとわからない仕訳以外の部分などを感じてもらえれば幸いです。

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それでは、この辺で失礼します。

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